昨今話題となっているホストクラブの「売掛金」。
いわゆるツケを指しますが、ホストクラブの性質上、売掛金は高額である傾向にあります。
高額な売掛金を払えないお客様もおり、残念ながらトラブルは絶えず社会問題にまで発展しました。
現在業界では売掛金は禁止する方針ではあるものの、一部のお店では売掛金制度が残っているのが現状です。
本記事は売掛金の概要だけでなく、売掛金の回収方法、未払いを防ぐ方法などを網羅的に解説します。
売掛金はプレイヤーの給料面だけでなく逮捕者が出たりお店の責任を問われたりと、経営にも大きく影響する可能性があるため、ホストクラブを運営する方は必見です。
ホストクラブにおける売掛金とは?
ホストクラブにおける「売掛金」とは、いわゆる「ツケ払い金」のこと。
業界では「掛け」と略されます。
売掛金はその日の持ち合わせが足りなかった時に利用することが一般的です。
高額ボトルを卸すときに売掛金システムを利用する傾向にあるため、基本的に売掛を許されるのは担当ホストとの信頼関係が構築されているお客様のみ。
また売掛金の支払い責任は基本的にお客様にありますが、売掛金の立て替えは担当ホストに課せられます。
こうした売掛金の性質もあって金額が上がれば上がるほど担当からの愛を感じるというお客様もおり、担当ホストのために売掛金を繰り返す女性も少なくありません。
ただ多くのお店では翌月の月初に支払うルールが敷かれているものの、支払いが間に合わない方もいます。
中には連絡を絶って「飛ぶ」悪質客もおり、支払い責任が担当ホストに転嫁されるケースも。
飛ばれた場合、売掛金はホストのお給料から天引きされます。
つまり売掛金は売上を上げやすいものの、かなりリスキーなシステム。
売上を優先するばかりに、お客様の支払い能力を超えた金額の売掛金をさせるホストも出てきてしまうのは明らかです。
売掛金を回収する方法
売掛金はプレイヤーに負担がかかるように思えますが、お客様から売掛金を回収する方法もあります。
売掛金を確実に回収したいなら、以下の方法に従ってください。
内容証明を送る
売掛金が残るお客様の住所あてに内容証明を送り、支払いを督促します。
内容証明とは、郵便局を通して「何が」起こったのかを記した手紙が相手方に受理されたことを証明するもの。
一般的に契約解除通知や売掛金のような未払い代金の支払いを督促する際に利用されます。
内容証明自体には法的効力はないものの、郵便局側も送ったことを記録しているため公的な証拠として提出可能。
売掛をしたお客様は「届いていない」といった言い逃れができなくなります。
訴訟を起こす
お客様に対して訴訟を起こすのもひとつの方法です。
内容証明で売掛金の支払いに応じてもらえなかった場合、ホストクラブ側は簡易裁判所に支払い督促の申し立てまたは訴訟を行います。
60万円以下の場合は少額訴訟、60万円以上の場合は通常訴訟になります。
通常訴訟は弁護士を立てる必要があるものの、少額保証なら弁護士は必要なく1日で判決が下ることも。
借用書を作成していればホストクラブ側の勝訴の確率は高まりますから、たとえ費用がかかったとしても売掛金をすべてホスト側が支払うことに比べれば損害は少ないでしょう。
強制執行を申し立てる
裁判所にてホストクラブ側の主張が認められたら、次に行うのは強制執行の申し立てです。
強制執行とは、裁判所が債務者の財産を差し押さえてその分を返済にあてること。
お給料や預金、不動産、自動車、貴金属などが債務者の財産にあたります。
ただしお給料は1/4しか差し押さえることができないという決まりがあるため、すべての金額を回収できないことも否定できません。
その場合は何度も強制執行の手続きが行われるため、長期に及ぶものの売掛金は回収できるでしょう。
もし連帯保証人がいれば、連帯保証人に支払いが求められます。
分割払いで返済を求める
お客様によっては支払いの意思があっても、返済が間に合わないケースがあります。
その場合は分割での返済を求めることをおすすめします。
分割で返済をしてもらう場合は、必ず返済計画をたてましょう。
可能な範囲の返済計画を立てられれば、最終的にはお客様も売掛金を全額返済してくれるはずです。
お客様の未払いを防止するには?
トラブルに発展しやすい売掛金ですが、そもそもお客様の未払いを防止できれば経営への打撃やプレイヤーへの影響も最小限に押さえられます。
未払いを防止するには4つの方法があります。
お客様の支払い能力以上に売掛させない
第一に、お客様の支払い能力以上の売掛を禁ずるのが未払い防止の鉄則です。
ただそのためには、お客様の職業やお財布事情を把握する必要があります。
お客様の職業やお財布事情の把握は、担当ホストの日々のコミュニケーションの積み重ねが必要です。
お店からのある程度の指導は必須となるでしょう。
借用書を作成する
売掛をする場合は、必ず借用書を作成してください。
借用書とは金銭の貸し借りの内容を明確化するもので、仮に支払いがなかったときに法的証拠になります。
借用書に記載する内容は以下の通りです。
- 表題(一般的には「借用書」)
- お客様の本名
- 借用日(売掛をした日)
- 売掛金の金額
- 返済期日
- 期限の利益喪失条項(分割払いをする際の約束事)
- ホストクラブの住所
- 店名
- 店舗責任者名またはホストの名前
ホストクラブの売掛金は基本的に利息や遅延損害金は含まれません。
また借用書を作成する際は、必ず身分証明書のコピーをとり本人であることを確認してください。
未払いの心配が少しでもあるなら、連帯保証人も記載する欄を別途設けると良いでしょう。
ただし連帯保証人を立てる場合は、連帯保証人の名前、住所、捺印が必要です。
売掛の管理台帳を作成する
誰がいつ、いくら借りたかを管理する売掛の管理台帳の作成も、売掛金未払いの防止に有効です。
売掛の管理台帳をつける際は、顧客名、担当ホスト、支払い予定日、金額を記載します。
どんなに少額の売掛金でも台帳への記載をお忘れなく!
ホストとお客様の間で信頼関係を構築する
未払いを防止するためには、ホストとお客様間の信頼関係の構築が必須です。
信頼関係があれば「担当ホストに迷惑がかけられない」と、お客様も支払いに対して真摯に対応してくれるでしょう。
一方信頼関係がないホストには罪悪感なく掛けを飛んで、売掛金が未払いになる可能性は否定できません。
・担当への愛を証明するために高額な注文を繰り返すのを担当ホストが止める
・度を超えたお願いをしない
こうした行動だけでも信頼関係は築けます。
信頼関係をいかに築くかを指導するのも、ホストクラブ経営者の責任です。
ホストクラブで売掛を禁止したほうが良い理由
売掛金が社会問題に発展し、現在多くのホストクラブでは売掛を禁止する方針を発表しています。
それはホストクラブでの売掛金は禁止したほうが良い、という意見も多いからです。
売掛を禁止したほうが良い理由は3つあります。
回収できなければ利益の損失になる
売掛金は担当ホストとお客様の信頼関係で成立するものの、掛けを飛ばれ未払いとなるケースも多発しているのが現状です。
飛ばれた売掛金は基本的に担当ホストが肩代わりするケースがほとんど。
飛ばれた売掛金が支払えず、肩代わりしたホストが辞めてしまう可能性も否定できません。
ホストクラブ側としては貴重な人材の損失および利益損失につながります。
売掛金の未払いのリスクを考えれば、端から禁止したほうが安心です。
回収に時間や手間がかかる
前述した回収方法からも分かるように、売掛金を確実に回収しようとすると時間と手間がかかります。
訴訟にまで発展すると、裁判所、弁護士、担当ホストとの連絡を頻繁にとらなくてはならず、多大な労力を払わざるを得ません。
担当ホストも店舗担当者も多忙になれば、仕事に影響する可能性もあるでしょう。
不要なトラブルを招く可能性がある
売掛金は不要なトラブルを招く可能性も秘めています。
例えば「ホストに売掛を強要された」という言いがかり。
強要していないにしても警察や弁護士を巻き込んでトラブルに発展した事例は多々あります。
こうしたトラブルは、売掛金をしなければ本来起こり得なかったもの。
売掛をしないほうが、トラブルに巻き込まれる心配がないのは明白です。
売掛における注意点
もし売掛をするなら4点ほど注意すべきポイントがあります。
返済義務が生じないケースがある
売掛には返済義務が生じないケースを把握する必要があります。
- 売掛の強要があった
- 借用書がない
- 法外な金額の売掛金
- お客様が未成年
- 恐喝で売掛金の回収があった
特に「売掛の強要」「借用書の有無」「お客様の年齢」は注意しなければなりません。
ホストクラブ側もプレイヤーや内勤スタッフには「脅すような発言をしないこと」「入店時の年齢確認」の指導を徹底しないと、返済を逃れられてしまいます。
売掛金には時効がある
売掛金には民法で2020年3月31日以前の売掛は支払い期限から2年、2020年4月1日以降の売掛は支払い期限から5年と時効が定められています。
ちなみに支払い期限からと設定されているものの、実は時効更新は可能です。
民法第166条2項にて「債務者が件売りを凝視することができることを知った時から5年間行司しないとき。」と記載されています。
つまり、債務残高確認書の送付や売掛金の一部を支払った時からさらに5年時効が伸ばされるという仕組み。
5年という時効は長いように見えますが、回収の手続きを踏まえると妥当かもしれませんね。
回収方法によっては違法行為に該当する
売掛金の回収方法は、やり方次第で違法行為とみなされる事があります。
そのひとつが「恐喝」です。
荒立てた言動による請求以外にも、以下のような回収行為は恐喝とみなされることがあります。
- 連帯保証人ではない親族や関係者への連絡
- 自宅や勤務先への頻繁な訪問
- 「返せ」という頻繁な連絡
- 売掛があることを故意に親族や関係者にリークする
- 刑事上の罪にあたると断定しての請求
恐喝とみなされると、恐喝罪が成立し逮捕・起訴されてしまいます。
恐喝罪になると10年以下の懲役が課せられ、職場を失うだけでなく店舗の信用への影響も出かねません。
また回収業者に依頼する際、債務回収者に弁護士・認定司法書士いずれかの資格がなければ無資格の回収業者を用いたとされます。
これは非弁行為という弁護士法第72条に反するもので、2年以下の懲役または300万円以下の罰金を支払うことに。
トラブルや違法行為への可能性を踏まえると、回収方法については弁護士に相談するのが安心ですね。
歌舞伎町の一部ホストクラブでは2024年4月以降は売掛が禁止
社会問題にまで発展した売掛金について、東京の新宿・歌舞伎町のホストクラブは「2024年4月までに売掛制度を廃止する」と指針を定めました。
これは新宿区役所にて、大手ホストクラブ代表の連絡会が開催され決定したもの。
売掛制度の廃止にともなって、多くのホストクラブでは売掛禁止のルールを敷くことをSNS上などで公表しています。
まとめ:ホストの売掛金は今後禁止の方向に
ホストクラブにおいて、プレイヤーたちの売上を底上げしていた売掛金は高額になることも多々あり、トラブルになるケースも絶ちませんでした。
ホストクラブの売掛金のデメリットは以下の通りです。
- 回収できなければ利益損失に
- 回収に時間や手間がかかる
- 不要なトラブルを招きかねない
売掛金は2024年4月以降、業界全体で禁止の方向へと進みつつあります。
不要なトラブルや利益損失を招かないためにも、これからホストクラブを運営しつづけたいなら売掛は禁止としたほうが良いでしょう。
もし入金がまだ残っているなら、2020年3月31日以前の売掛は支払い期限から2年、2020年4月1日以降の売掛は支払い期限から5年の時効があります。
回収するなら、弁護士に依頼したほうがトラブルは未然に防げるはずです。
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